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ちあきの星空コラム 田中千秋(たなかちあき)

第40回 水星の太陽面通過

水星太陽面通過が見られます

めずらしい現象

今月9日(木曜日)の早朝、太陽面を黒く見える水星が横切る現象「水星の太陽面通過」(「水星日面経過」ともいいます)が見られます。
これは、地球と水星と太陽が一直線に並んだときに見られる大変めずらしい現象です。
一直線に並ぶといっても、太陽の周りを公転している水星と地球は、その運動を止めることはありませんので、右の写真のように太陽面に水星の姿が小さく黒く見られ、その黒い水星は太陽面を刻々と移動していくのです。
こうした現象はめったに見られず、次に日本で見られるのは26年後の2032年11月13日のこととなります。

水星の太陽面通過
水星の太陽面通過

2003年5月7日守谷市内で撮影

36年前の水星太陽面通過
36年前の水星太陽面通過

1970年5月9日に見られた現象を当時高校生だった私は、ミニコピーという複写用のモノクロフィルムを使って撮影しました
水星太陽面通過の拡大写真
水星太陽面通過の拡大写真

この拡大写真では、水星の黒い姿が丸いことがわかります

太陽を見るのは危険!

そうしためずらしい現象ですから晴れたらぜひ、見ていただきたいのですが、太陽を眺めるのですから注意も必要です。太陽はまぶしくて、とても直視できるものではありません。これは天体望遠鏡や双眼鏡を使っても同様で、まぶしい上に望遠鏡やルーペは太陽の光を集める力をもっており、のぞくととても危険なのです。
ですから、天体望遠鏡で見るときは、太陽投影板に写った像を見るか、太陽観測用の専用フィルターを使用して見ることとします。
決して太陽は望遠鏡や双眼鏡でそのままのぞかないでください。強い熱と光により失明の危険性を伴いますので、注意してください。

太陽投影版による太陽観測
太陽投影版による太陽観測
太陽の熱と光は直接のぞくと失明のおそれがありますから、太陽観測はこのように太陽像を投影して行います

じっさいの見え方

太陽投影版に写った太陽像
太陽投影版に写った太陽像

このように投影像で太陽黒点や今回の水星通過像ははっきり確認することができます

見るためには天体望遠鏡が必要で、それに太陽投影板を付けて投影像を見るようにすれば安心して見ることができます。
つくばで日の出となる午前6時10分過ぎには既に水星は太陽面の中に黒い丸いつぶのように見られます。これが時間の経過とともに移動していき、午前9時10分頃には太陽から離れて、見られなくなってしまいます。
太陽面に黒点が見られるときは、その黒点と水星の黒さに違いがあることも確認できますので、ぜひ観察されることをお勧めします。ただし、くれぐれも眼を痛めないようにご注意をしましょう。


写真に撮る

水星太陽面通過の撮影シーン
水星太陽面通過の撮影シーン

太陽の撮影では天体望遠鏡にカメラボディと太陽用の濃いフィルターを取り付けて撮影します

この現象を写真に撮りたいと思われる方もいらっしゃると思います。
写真撮影の要領は、望遠レンズや天体望遠鏡にカメラを取り付け、口径を5センチ以下に絞った上に濃いフィルターにより十分な減光をして太陽黒点や部分日食を撮影する要領で撮影します。天体望遠鏡のファインダーには必ず光を通さないキャップを取り付けてください。
減光用のフィルターは、太陽専用のD4(ND10000)フィルターを使用するか、ND400フィルターを2枚重ねて使用するといいでしょう。さらに太陽の明るさによって、調節用にND4やND8といったフィルターも重ねて取り付ける準備をしておくといいでしょう。

これらのフィルターは、太陽の光を減光しますが、紫外線や赤外線をカットする能力はありませんので眼には有害で、フィルターを付けたからといって長いこと太陽を見てはいけません。
くれぐれも注意しながら自己責任で撮影してください。

良く見えた水星像

好天に恵まれ、水星の太陽面通過は各地で観測されました。
読者のみなさんはどうだったでしょうか。
私も、この写真のとおり、無事、観測し、写真に撮影することができま した。太陽の大きさに比べたら、水星は本当に小さく、太陽面の端に 見える黒点よりも小さいことがわかります。
また、太陽はかたちが球体であるために、周囲のほうが暗く写ってお り、球形であることが実感できます。(11月9日追加)

水星太陽面通過
撮影に用いた機材
天体望遠鏡:高橋製作所製口径60ミリ屈折(焦点距離500ミリ)
フィルター:ケンコー製ND10000
カメラ:ニコンD80カメラボディ
カメラ三脚で固定
撮影時刻等
2006年11月9日午前7時5分,露出1/1000秒

11月の星座案内

くじら座の写真
くじら座の写真

くじら座の星座絵
くじら座の星座絵

11月は晴天も多く、また大気中の湿度も低く、さらに夜の時間も長いので、星空を眺めるチャンスが多くなることでしょう。
秋の星座を見つけ、じっくり観察するのにも適した時期ですが、今月は、その中でも星座としてはちょっとみつけにくいくじら座をみつけてみましょう。
このくじらは、ギリシャ神話ではエチオピア王国の王女様アンドロメダ姫をいけにえとして食べようとしたくじらです。あやうく勇者ペルセウスによってアンドロメダ姫は助けられ、くじらはペルセウスの退治したメドウサの首に睨まれ、石と化してしまいます。
くじらの姿は、化けくじらといわれており、星座絵では手まで描かれています。
くじら座は、大きな星座で、全容をみつけるには星座絵と天体写真、それに星図をもって、じっさいの星空で、ペガススの四辺形やアンドロメダ座などから位置関係をたどってみつけるようにしましょう。じっさいの星を見て、星々を結んでくじらの姿が天に描けたら(心の中で)きっと感動することでしょう。

11月の星座案内図

星図(白地)
白地星図
星図(黒地)
黒地星図

※それぞれの図をクリックすると、大きい星図に変わります。印刷される場合は、A4用紙を横にしてください。

※この星図は、株式会社アストロアーツの天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータVer.7」から出力し、加工したものを使用しています。

2006年11月2日

田中千秋氏の略歴

田中千秋(たなかちあき) 男
1953年大分県生まれ

子供の頃、オリオン座の日周運動に気がついたことから星に興味をもち、その後、中学生時代に天体望遠鏡を自作して天体観測や天体写真撮影を始め、以来、現在まで天体写真を継続して撮り続けている。
この間、各天文誌の天体写真コンテストに入選。天文雑誌での天体写真撮影の啓蒙記事を幾度も連載、また、天文雑誌「星ナビ」の前身である「スカイウオッチャー」誌でのフォトコンテストの選者もつとめた。
最近は、各地の星まつり等における天体写真コンテストの選者をつとめたり、天体写真教室や観望会の講師をつとめるかたわら、仲間と共同で建設した天体観測所(千葉県鴨川及び長野県東部町)や神津牧場天文台(群馬県下仁田町)に天体観測に出かけている。
主な著書に、「図説天体写真入門」、「図説天体望遠鏡入門」(いずれも立風書房刊)がある。
茨城県龍ヶ崎市在住。